その1「みんな悩んで大きくなった」
昨年5月のマンスリーANGA創刊号から連載が始まった拾参道場を愛読して下さっている真面目なミュージシャンのみなさん、いよいよ今回から中級編に突入します。
入門編及び初級編で何度も何度も同じ事をいろいろな角度から話しました。その訳は、音楽を構成する沢山の要素がある事を知っていても、具体的に演奏する時に細心の注意を払ってそれらの知識を活かせないでもがいているアマチュアミュージシャンが多いからです。
俗に言う音楽的センスとは知識を活かす知恵だと思います。そこで中級編では知識の整理と知恵の使い方のお手伝いをして行きたいと考えています。
その2「自立」
演奏者としてある程度の実力が付くと、月に何度もライヴハウスに出演するようになります。今日は千葉、明日は東京と言った具合で週末はどこかで音を出している人も多い事でしょう。
バンドを組んでいろいろな場所で演奏するのはとても楽しい経験ですし、会場の人々と一体となったライヴは一生忘れられない感動を味合わせてくれます。そしてそんな感動を又味わいたくて忙しい時間を割いてリハーサルを重ね、バンドのサウンドをより充実させようとするのです。
そんな活動を1年2年と続けていると、当然マンネリに陥る事も有ります。何故か燃えない、何故か楽しく無い、ひどいときにはメンバーの顔も見たく無いなんて事も起きたりします。そして大概の場合誰かの責任にして自分を納得させます。
もしあなたが一生ミュージシャン(生活の糧は他で稼いだとしても)でいたいなら、一人でも続けて行く強い意志が必要です。何かから逃れるために楽器を手にしたとしても、音楽の魅力にとりつかれたのなら徹底的にのめりこんでみましょう。生まれた時から歩いたり話したりできる赤ちゃんはいません。毎日の練習が1年後の自分を作る事を信じて下さい。
その3「心の引き出し」
あなたのお気に入りのミュージシャンは誰ですか?憧れが高じて楽器を手にしこの道にどっぷり浸かった人の多いのにはびっくりします。
最初は見た目を真似、曲を真似、音を真似、ライフスタイルや趣味まで影響を受けてしまう人もいます。1960年代、世界中(一般に先進国と言う、人間を消費者としか見ない世界)の若者に意識革命を起こした「ビートルズ」のようなグループはその代表でしょう。
ここで気付いて欲しいのは、ビートルズのメンバーも誰かの影響を受けて彼等の音楽を開花させたと言う事です。そしてその影響を与えたものとは音楽だけに留まらず、詩や小説と言った文学や絵画彫刻と言った美術そして映画等芸術と呼ばれるすべてのジャンルに及ぶ事でしょう。
自分の感性で味わうためには自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の心で判断しなくてはなりません。素晴らしい芸術に沢山触れ、心の引き出しを沢山持つ事によって、自分自信の感情表現もうまく出来るようになるのではないでしょうか?
その4「探究心」
「おーっ、いい音だなあ」「あんな音を出してーなあ」今あなたの手にしている楽器は多分そんな理由で手に入れたのだと思います。
ところが色々付いているつまみをいじてみても求める音が出ないと電気楽器の宿命であるアンプとのマッチングにたどりつくはずです。楽器もアンプも同じなのにまだ気に入った音が出ないとエフェクターと言う音の電気信号を変える事のできる小道具に目が行きます。それでも満足できない人は耳の良い人です。
何となく似ているといったレベルで、とりあえずその気になってやるのも決して悪い事では無いのですが、良い音を出すと言う事は最も難しい事なのです。ギターでもベースでもピアノでもドラムでも、同じ楽器を弾いて良い音を出す人と出せない人がいるのは何故なのでしょう。
テンポを正確にとってリズム練習する時同じくらいの注意を払って一音一音を良い音(無駄な力を抜いて美しく響かせる)で鳴らす事を意識して下さい。そうする事によって貴方の演奏する一音一音に命が宿り本当に良い音を手に入れる事が出来るはずです。
その5「表と裏」
これだけ音楽ビデオが出回っているのに、髪型や服装に目が行ってもギタリストのピッキングやベーシストの手首の使い方にまで目が届かないのは残念な事です。
入門編で書いた事ですが1小節に4分音符が4つで4拍子、その1小節を8分音符で刻むのが8ビートと言うのですが、8ビートピッキング(弦をピックで弾いて音を出す事)するときダウンとアップのピッキングで音色や長さが違っている事に気付かないで演奏していないでしょうか?
単音フレーズをダウンピッキングばかりで弾いたり、コードをダウンで弾くためにアップの作業をしているだけで、アップで弾くという意識を持たずに隙間を埋めているだけではありませんか?
一般的にロックンロールと言われる8ビートの音楽は基本的にアップダウンのピッキングを4回くり返す事によってリズムの切れをだし、2回目と4回目のダウンピッキングにリズムのアクセントがあります。単純な事ですがいざやってみるとそれだけで心地よい乗りを出せる人は意外に少ないようです。
8ビートをそのビートの裏(すなわち16分音符16個のアップダウン)まで意識できればいつでも自信を持って演奏を楽しむ事ができるはずです。
その6「逃げるな避けるな」
「ジミ=ヘン(*)てさあ、譜面読めなかったんだぜ・・・・」だから何んだ!過去の有名ミュージシャンで譜面を読めなかった人は多い、しかしそれは君も読めなくて良いと言う免罪符にはならない。彼等には必要無かっただけで、バッハが平均率を用いてからずっと音楽を伝達する最も正確で有効な手段は譜面である事に変り無い。
「こんな感じ」と実際に弾いたり歌ったりするか、録音したものを聞かせて伝える方法も有るが、相手がよほど鋭い耳を持っているか天性のリズム感でも無い限りかなり曖昧な伝達しか出来ないだろう。
譜面でつたえる事により無駄な時間を費やす事無く曲の構成やニュアンスを頭に入れてリハーサルに臨めば、コード進行で手間取ったりシンコペーションに面喰らったりする事無く、最初から曲全体のアンサンブルを意識した密度の濃い時間を過ごせるだろう。
(*)ジミ=ヘン、本名ジェームズ・マーシャル・ヘンドリクス。1967年、エクスペアリアンスを率いてデヴュー。1970年9月18日死亡するまでロックギターに革命を起こし続けた天才ギタリスト。
その7「つきつめろ」
自分達のオリジナル曲を演奏するバンドは、オリジナルを演奏する事に誇りを持っています。メンバーの誰かがギター1本で作った曲を皆で、リズムはこうしよう、ハーモニーはこうしよう、ブレイクをいれてみよう、とアンサンブルを作り上げて行く作業は楽しくも有り大変な労力と時間を要します。
ところが提供された原曲に対するアンサンブルにかける労力に比べ、歌詞に対して労力を払う人の少ないのには驚くばかりです。
楽器の練習に何時間も割くように歌詞を突き詰めてみる努力は必要です。1曲の歌詞が1回で書ける事も有れば、ノート1冊分書いてやっと気に入る表現ができる事も有るでしょう。
中途半端に言葉を埋めるのでは無く、歌う人間が納得して歌える歌詞を作り上げて初めて、いつまでも歌い続けていける歌が誕生するのではないのでしょうか。
その8「追い込め」
便利な言い訳に「マイペース」と言う言葉があります。特別に目的も無く自分だけ楽しければ良いのなら正にマイペースでいいでしょう。しかし音楽の魅力にとりつかれ何かを目指し何かを掴みたくてライヴ活動をしているのなら、マイペースなんて言い出すと死ぬまで何とかなら無いのが一般的です。
自分が演奏する日に友人、知人、親兄弟、ありとあらゆる人に声をかけて来てもらいましょう。自分が一生懸命やっている事です。誰に恥じる事も無いはずです。そうして毎回言い訳の出来ない状況に自分を追い込む事によって今以上に音楽と真剣に向き合う事が出来るようになるはずです。
結果的に満足いくライヴが出来、聞きに来てくれた人に喜んでもらえば、その人達は次回から力強い応援をしてくれるでしょう。チャンスは自分で作るのです。「明日、ライヴレコーディングするよ!」と言われた時に「ちょっと待ってよ」なんて言わないためにもどんどん自分を追い込みましょう。