その1「リズムとテンポ」
よく、楽譜の上に<♪=120>のように音符と数字が書いてあります。これはその下の楽譜の曲を演奏する時のテンポ(速さ)を指示したもので、1分間に4分音符120個(1秒間に2個)という事です。手をたたいてみると分かりやすいので、1拍2拍と均等に1分間に120回たたくのが<♪=120>で演奏する第一歩です。(註・記号表に4分音符が無かったので8分音符で代理させてます)
クラシックのように曲中で何度もテンポが変化する音楽も有りますが、一般的にバンド演奏される殆どの曲は最初から最後まで1つのテンポが守られます。バンド演奏は合奏です。小学生時代の器楽合奏の時は必ず指揮者がいて、その指揮に全員がテンポを合わせたのですが、バンドの場合メンバーの一人一人がテンポをしっかり守るのが合奏の最低条件となります。
ここで、よく勘違いしていたり、知らずに言い訳している言葉が思い出されます。「俺ってリズム感悪いから・・・」「私って昔からリズム音痴なの・・・」日本では(日本の音楽教育では)『リズム』と『テンポ』を混同しているようです。テンポは訓練(反復練習)によっていくらでも正確に保てるようになります。厄介なのはリズムです。しかしリズムは音楽の最も大切な要素のひとつです。リズムを意識して演奏すると、同じメンバー、同じ楽器、同じテクニックでも、まるで別のバンドのように素敵に聴こえて来ます。次回は『リズム』についてお話します。
(MONTHLY ANGA1997年5月号掲載)
その2「リズムとアクセント」
一般にリズムと言うと3拍子とか4拍子というように大まかなイメージで捉えられています。楽譜を見ると五線譜の最初にgの文字でG音(日本語ではト音叉はソ)を示す『ト音記号』が書いてあり、次に必ず拍子を示す分数が書かれています。演奏に際して、1小節に4分音符3個が4分の3拍子、4分音符4個が4分の4拍子ということで、2分の3なら2分音符3個、2分の2なら2分音符2個ということです。
さて、その3拍子ですが、3つの音符の何処にアクセントが有るかによって曲調が全く変ってしまいます。3拍子の代表はワルツです。ワルツと言えばウインナーワルツ、シュトラウス親子の素晴らしい作品群が輝きを失わないのも、そのリズムの魅力に拠るところが大きいと思われます。日本のワルツは1拍目にアクセントが来ることが多く、唄い易いのでいつの間にかそうなるケースも多いのですが、ウインナーワルツの優雅でかろやかな雰囲気の秘密は、3拍目と次の小節の1拍目に有るのです。
リズムのアクセントを意識することによって曲全体が息づきはじめるのを誰でも体験できます。4分の4拍子で書かれた譜面も、4つの4分音符のどこにアクセントを見つけるかが曲を理解する大前提になります。初心者が無意識に演奏すると必ず小節の頭にアクセントを持って来ます。元の曲を何度も聴いてリズムのアクセントまで味わってみることは大切なことで、慣れてくると幾つかのパターンに別れていることにきづくはずですし、同じ曲(モチーフ)をリズムのアレンジ(ビートの変化)でいろいろに楽しむことも出来ます。次回はリズムに潜む『ビート』についてお話しましょう。
(MONTHLY ANGA1997年6月号掲載)
その3「ビートと乗り」
ビートを辞書で引くと(v)打つ、叩く(n)打つ音、鼓動、拍子と翻訳されています。しかし2ビート、4ビート、8ビート、16ビートというと、それぞれ1小節に2拍、4拍、8拍、16拍を打つということで、決して拍子の事ではありません。
2ビートの代表はマーチ(行進曲)です。パチンコ屋さんの開店のテーマソング『軍艦マーチ』のメロディーを口ずさんで右足から歩き出したら、左足に必ずリズムのアクセントがあるのを誰でも体験できるでしょう。2ビート系のリズムには「マーチ」の他に「バイヨウ」「スカ」「サンバ」などが有り「パンク」の縦乗りも2ビートに含まれます。
さてここからがややこしいのですが、4分の4拍子と表示された譜面でもすべて同じビートではありません。4分音符を均等に流れるように演奏すると4ビートの代名詞「スイング」になります。ところが3連符4個になると「シャッフル」や「スローブルース」になり、8分音符8個にすると8ビート、16分音符16個で16ビートになります。
4、8、16とビートが増しても4分音符4個の2拍目と4拍目にリズムのアクセントが有るのが俗に言う『アフタービート』というやつです。4ビートのままでもアクセントを拍の裏に持って来ると、「レゲエ」のリズムが誕生します。リズムに潜むビートを理解しアクセントを意識すると『乗り』というものが表現できるのです。
(MONTHLY ANGA1997年7月号掲載)
その4「習うより慣れろ」
きっかけは人それぞれ、ラジオから流れて来た曲に感動したり、テレビで見たバンドが格好良かったり、文化祭で見た先輩の演奏に刺激されたり、とにかく唄いたいとかギターをかき鳴らしたいと思ってバンドを始める人が殆どだと思います。最初からヴォーカリストを目指す人以外は先ずは楽器を手に入れようと努力します。そして夢にまで見た楽器を手に入れた時ミュージシャン人生が始まります。
前回まで3回にわたって説明したテンポ、リズム、アクセント、ビートの区別が曲を聴いて判れば、あとは実際に楽器を演奏するのが一番です。赤ちゃんも歩けるようになるまで一年以上かかるのです、楽器も毎日手にしましょう。正確にチューニングして、コード(和音)を覚えてとにかく弾きまくりましょう。沢山弾くことによって無駄な力が抜け、正しく弦をピッキング出来るようになるはずです。とにかく「習うより慣れろ」です。
(MONTHLY ANGA1997年8月号掲載)
その5「楽器と合体せよ」
弾けば弾く程、楽器は自分のからだの一部のようになります。ギターに例を取れば、最初はコード一つ弾くにも、人さし指、中指、薬指ともどかしい思いでフレットの上を押さえるのですが、何度もくり返すうちにパッ、パッと押さえられるようになります。幾つもコードを覚えてくるとコードの形にも何種類かのパターンが有り、フレットの移動だけでコードを沢山弾けることが判るはずです。そのうち0フレットから12フレットまでが1オクターブであることや、同じ音がいろいろな場所にあることを知ります。その次にはコードの音色でメジャー、セヴンス、マイナーと判るようになります。
ここで安心してはいけません。単音でかっこいいリードギターのフレーズが弾けなくとも、コードをしっかり覚えリズムを刻んで、心地よい乗りを出せるまで弾きまくりましょう。そうなればギターのネックを見てフレットを探さなくとも意識するだけで手が正確に移動するようになるはずです。この時点でギターはあなたのからだの一部になったと言えるのです。おめでとう!
(MONTHLY ANGA1997年9月号掲載)
その6「飽和と調和」
楽器を手に入れなんとか弾けるようになるとメンバーを探しバンドを組んでみたくなるものです。バンドで演奏すると言うことは無条件に楽しいことですし、始めたら止められない麻薬のような魅力が沢山詰まっています。最初は気の合う仲間や同じ音楽が好みの人、あるいはメンバー募集のはり紙で知り合ったりと、いろいろな形でバンドを組む訳です。
メンバーの中に必ず、他の人より少しだけ音楽の知識を多く持っていたり、技術的に進んでいる人が一人や二人いて、自然とリーダーシップをとりバンドのサウンドをまとめようと皆を引っ張ってくれます。中には押しの強さとか腕力の強さでリーダーが決まる場合もあるようです。
さてここで初心者が気をつけなければいけない大切なことが幾つか有ります。最近はレンタルスタジオでリハーサルすることが一般的なようですが、狭いスタジオでそれぞれの楽器の音のバランス(調和)をとり、他のメンバーの音を聴き、バンド全体のアンサンブルやサウンドを客観的に聴く癖をつけましょう。そのためには大音量で音の飽和状態を作ってはいけません。
普段自宅で出せないような大きな音が気持ちよくて飽和した音に酔うのは初心者に良く有ることですが、強弱のない一本調子の音楽は聴く人にとって99%不愉快なものです。ましてヴォーカルのいるバンドなら楽器の大音量に負けまいと怒鳴るだけの情けない歌い手を作ってしまいます。
(MONTHLY ANGA1997年10月号掲載)
その7「気持ちいいこと」
レンタルスタジオでのリハーサルでは時間があっという間に過ぎてしまい、せっかくメンバーが揃ったのに内容的にはかどらないことが有ると思います。そんな事を何度かくり返すうちに知恵を働かせ、前もってチューニングしたりイフェクターの電池を確認したり弦のスペアを用意したり、とにかく他のメンバーに迷惑を掛けないよう気を使うようになります。
この気持ちをもう一歩前進させ、メンバー全員がリハーサル前にそれぞれのパートをしっかり練習して覚えておくとバンドのリハーサルはおもしろいようにはかどります。
ギターやキーボード(ピアノやオルガン)管楽器は自宅練習出来ますが、ドラムはそうもいきません。ドラムの人がスタジオに入るとドタドタ叩くのは単純に楽器に慣れて無いせいなのです。
練習にはイメージトレーニングという方法もあります。課題曲を何十回と聴いて体全体でリズムに乗ってみましょう。ドラムのフレーズだけを気にするので無く、曲の隅々まで味わってみると、実際のリハーサルの時に先ず心地よい乗りを出そうとするようになります。その気持ちさえ有れば単純に叩いていてもメンバー全員が気持ちよく演奏できるのです。
(MONTHLY ANGA1997年11月号掲載)
その8「初心忘るるべからず」
演奏という素晴らしい趣味を手に入れた人は幸せです。一生続けられ、やればやるほどその奥の深さに魅せられ、感動と興奮を味わえる音楽は、人間に与えられた天の贈り物、そして多分最も歴史の古い文化の一つといえます。
嬉しいから叫びたい、気持ちいいから唄いたい、そんな素直な感情表現が歌の始まりだと思います。丸木をくり抜いた太鼓を叩いたり、牛の角や葦の茎を吹いてみたり、石を並べて音階を楽しんだり、演奏も単純なリズムの繰り返しからだんだん複雑に進化して行ったのでしょう。いずれにせよ演奏する人も聴く人も心地よくなるのが生演奏の最大の魅力だと思います。
心地よい「リズム」「メロディー」「ハーモニー」そして「音色」。言葉で書くのは簡単ですがこれらの要素を自分の物にするのに多くのミュージシャンが苦労しているのです。その上「歌詞」という文学的要素も加わるのですから楽しむためにやらなくてはならない事は沢山有ります。
しかしどんな状況でも忘れてならないのは、最初に『唄いたい』『叫びたい』『音を出したい』と思った感情のたかぶりと、純粋な心の欲求なのではないでしょうか。
(MONTHLY ANGA1997年12月号掲載)