初級編

その1「生命の水」

あこがれのミュージシャンのコンサートに行った事は誰にでも有ると思います。長年何百回も聴いて来た音楽を生で体中に浴びる事のできる期待でワクワク開演を待った事でしょう。まばゆいばかりの照明の中あこがれのミュージシャンが登場し次から次へと細かいフレーズの一音一音まで知り尽くしている曲を演奏します。感動の波にゆられあっという間に時間が過ぎ、まさに夢見心地で帰路についた事と思います。 上質の生の音楽に触れる事は、演奏者にとって生命(いのち)の水を飲む事と同じです。自分がいつも立っている同じステージで、同じ環境で、人の演奏を聴く事は新しい発見や興奮や感動を経験できる身近なチャンスです。ジャンルにこだわらず、気楽に貪欲に未知の世界の扉を押し開けてみましょう。 (MONTHLY ANGA1998年一月号掲載)

その2「自分を信じよ!」

せっかく練習したのに本番のライヴがうまく行かず、打ち上げの席でエネルギーを発散させている少年少女の皆さんお元気ですか?飲んで騒ぎたいだけなら赤の他人を巻き込む必要は無いし、まして不愉快にさせるなら内輪で楽しんでくれる方が健全です。(不健全だからロックだと言う意見も有りますが・・・) 人前で演奏すると言う事は自分をさらけ出す事です。どんなに稚拙な演奏でもハートは伝わります。しかしそのハートが無ければ救いようがありません。「あー、失敗したなー」とか「なんだか納得できないなあ」と思った人は希望を持って下さい。そんな人には成功のイメージが描けるのですから、そのイメージに向かって行けば良いのです。 イメージは山のようなものです。すぐに登れる低い山から、雲に隠れて山頂が見えないような高い山まで有ります。どんな山も麓から一歩一歩登って行かなければなりません。登り出すと自分が今どの辺りにいるか判らず不安になる事も有るでしょう。自信が無いと何かと心配に思うのも自然な事です。 演奏する上で、不安材料を一つ一つ消す作業を続けて行けば必ず頂上が見えて来るはずです。楽しみの為には時間を惜しまず使いましょう。自分自身のイメージを信じて! (MONTHLY ANGA1998年2月号掲載)

その3「卑屈になるな」

いろいろな情報がそこら中に溢れていて、何がなんだか判らないこの頃です。音楽一つ採ってみても、レコード店には毎月のように新譜が山のように並び、楽器店やオーディオ専門店には次から次へと新製品が顔を出します。本屋へ行けばありとあらゆるジャンルの雑誌が並び、楽器別の入門書やミュージシャン別の完全コピー集など、考え付く限りの専門書が出版されています。 そんな沢山の情報の中から必要なものを選んでゆくのは骨の折れる作業です。とりあえず何でも手に入れようとすると、参考書を山積みして満足している受験生のようになってしまいます。肝心なのは自分が何が好きで何に感動して何をしたいのかハッキリと自覚する事です。 自分の感情を素直に表現することさえできればそれだけで楽しいでしょうし、他人の評価や意見に訳も判らず悩まされたり卑屈になる事無く冷静に判断でき、胸をはって演奏できるのではないでしょうか。 (MONTHLY ANGA1998年3月号掲載)

その4「聞くは一時の恥」

自己流で楽器を演奏している人は何かと人の意見が気になるものです。確かな手ごたえを感じている時は恐いもの知らずで進めるのですが、ひとたび迷い出すと出口を探してもがき苦しんだり、気持ちを楽にしたくて問題から逃げてしまいがちです。そんな時に追い討ちを駆けるかのように厳しい意見や批判を受けると、打ちのめされたような気分になって立ち直るにも時間がかかるのです。 ところが逆の立場になって考えると以外と簡単に乗り越える事が出来ます。「こうしたらもっといいのに」と思うから意見をするのです。意見を言った人が信頼できるなら具体的にどうしたら良いのか質問して、そのやり方を試してみましょう。確かな答えや経験も無く無責任に放たれた意見だと判れば気にしたり傷付く事はありません。 意見してくれる人の心の温もりが感じられたら、虚勢を張らずに耳を傾むけ、自分の心の容量をどんどん増やしましょう。 (MONTHLY ANGA1998年4月号掲載)

その5「親は無くとも子は育つ」

中国の故事に『孟母三遷の教え』という話が有ります。古代中国の思想家として名高い孟子の母親が子供は何にでも染まり易いので、良い環境と良い師を求めて三回も引っ越しをしたという逸話です。 子供の趣味の為に引っ越ししたり、良い先生を探してくれる親を持たない人は自分で自分の音楽環境を整えなければなりません。音楽学校や音楽教室に通う人は取り敢えず先生を信用してついて行くしか無いのですが、一人で練習している人は、先ずリズムに乗る事ときちんと良い音を出す事を心掛けましょう。 モチーフの曲のメロディーを間違うことなく演奏できたからと言って安心してはいけません。一音一音良い音(本人の主観)を出す事、そしてフレーズを唄わせる練習、曲全体の中での強弱から微妙なニュアンスまで表現する訓練と続きます。 最初の「リズムに乗る事」ができれば後は本人の感性の問題です。個人練習の成果の確認には良い師を見つけて評価してもらいましょう。全く音楽の知識や経験の無い人でも素晴らしい感性で直感的に良し悪しを理解する人がいるのも事実です。 何年もやっていればできる事、何年も無意識にやって付いてしまった悪い癖、何年もやっていて気付かなかった事。誰かの一言で目の前の霧がはれる事も有ります。御耳愛下さい。 (MONTHLY ANGA1998年5月号掲載)

その6「己(オノレ)は誰?」

「こんなに一生懸命やっているのに、反応が今一なのは客が悪いのか」なんて思っているバンドマンの諸君、本人がどんなに思い込んでいてもそれを100%相手(聴衆)に伝える事は、男女の仲と一緒でなかなか難しいのです。まして演奏や歌で何かを伝え感動や興奮を呼び起こすのは、あらゆる条件を満たして初めて可能になる神業に近いものです。 本人が思う自分の魅力と他人が感じる魅力は往々にして異なります。演奏開場のすべての人があなたのファンなら何をやってもどんな内容でも大目に見てくれるかも知れません。しかし確実にファンは減って行くでしょう。そうなる前にお客さんの生の声をどんどん聞きましょう。どう感じどう思ったのか、そして自分の思いとのギャップを認識できれば次のライヴに新鮮な気持ちで臨めるのではないでしょうか。 盛り上がらないライヴの原因はすべて演奏者にあるのです。耳あたりの良い事ばかり言ってくれるえせファンをはべらして裸の王様にならないで下さい。 (MONTHLY ANGA1998年6月号掲載)

その7「ハレンチなアレンジ」

オリジナル曲を作り、コード進行だけメンバーに伝えいきなり貸しスタジオでリハーサルを始めてしまう勇気有るバンドマンの皆さんお元気ですか。 プロのミュージシャン、特にブルーズやジャズのミュージシャンは意外にこのやり方を採る事が多いのですが、アマチュアロックバンドの場合、曲づくりとアレンジが同時進行するこのパターンは、素材の良し悪しを吟味する事無く、メンバー各々の手の内を総べて注ぎ込んで過剰に飾り付けてしまいがちです。 メロディーもはっきりせず、構成も決まっていない場合は単純に基本のビートだけで押し通し、先ず心地よい乗りを出す事に専念しましょう。そうすると全員がその基本リズムに添ってアレンジに参加するので、取って付けたようなリフや場違いなおかず(オブリガート)や流れを壊してしまうビート等考え付かないでしょう。 この順序を間違えると、次から次へとリズムパターンを変えたり、大袈裟なシンコペーションを入れてみたり、意味の無いブレイクをしてみたり歌詞のイメージなど全く眼中に無いワンパターンのアレンジになって行きます。アレンジは裸の曲に似合った服を着せる事で、派手に飾る事ではないのです。 (MONTHLY ANGA1998年7月号掲載)

その8「ごまかされるな、ごまかすな」

本来の自分の性格を偽って別人の性格を演じた事が有りますか?そんな経験のある人ならありのままの自分でいる安心感がとても良く判ると思います。ところが人間というのは不思議なもので自分で望んでいない環境でもそこに放り込まれると、その世界しか見えなくなりがちです。 最近のライヴハウスのほとんどの店がPAでバランスをとります。オペレーターの主観で整えられたすべての音を大音量でステージ上のモニタースピーカーで再生し、実際に演奏している生音やアンサンブルのバランスなど関係なくミュージシャンを欺くやり方が主流のようです。 これでは何十回、何百回ライヴを重ねても自分達でバランスを取る努力をしないのでバンドとしての実力がつきにくいのです。飽和状態に身体をゆだねるのもなかなか快感なのですが、PAはあくまでも開場の聴衆に最上のバランスと音質で演奏を届けるための補助なのです。 良いミュージシャンをめざすなら、ごまかしの無いありのままの自分を知るためにも必要以上にモニター音量を上げないように注意しましょう。 (MONTHLY ANGA1998年8月号掲載)

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